慈光寺 板碑群、危機一髪で助かったお話

 今年ももうじき終わろうとしていますが、今年出会ったできごとで、とても印象深かったことがあります。

 秋の始めごろ、ときがわの慈光寺近くにある霞工房に「在ときがわ三人展-伝統技法に根ざして」の打ち合わせのため、山道を車で上っていきました。途中、慈光寺の手前に鎌倉時代に造立されたすばらしい板碑群があります。板碑は9基、埼玉県指定文化財になっており、一番大きいもので高さ275㎝あるそうですが、その並んだ板碑にぴったり添うように、長い大きな木が横たわっていました。

  運転中の夫がそれを見て、「この木はたまたまこんなうまい具合に倒れたんだろうか。」と言うので、私は「木がそんな人間に都合良く倒れるわけがないでしょう。道に倒れて横たわったのを端に寄せたんじゃないの。」と一笑に付して、先を急ぎました。

 ところが霞工房さんに聞いてみると、その木は楓の木で、もともと根の近くに虚ができていたので台風で倒れ、倒れたそのままで置かれている状態なのだということでした。板碑の傷はほんのわずかで、被害といえばステンレスの標識が、大きな枝が当たった衝撃で地面にめり込んだことだったそうです。帰り道に改めて横や後ろからよく見てみましたが、よくもまあこれほどすれすれぎりぎりに板碑を壊さずに、道を通る人にも迷惑をかけずに、うまいところに倒れてくれたものだと驚き、思わず携帯の写真に撮り、木にお礼を言いました。この写真は、木がその一生を終えるひとつの姿です。 


 

 数日してここを通った時にはすでに木は撤去されていて、いつもの状態に戻っていました。この木はたまたまこの場所に倒れ、文化財は助かり、私たちも偶然ここを通りかかって見たというだけのことですが、この遭遇は、私の慈光寺に対する気持ちを少し変えました。都幾川村(現ときがわ町)に引っ越して18年、慈光寺とその周辺の土地の歴史は多少の知識はもっていましたが、これから少しずつ勉強をし、大切にしていきたいと思うようになりました。